■ 変化球概説

 変化球とは、ボールの握りや腕の振りによってボールに回転を加え、様々な方向に変化するボールの種類のことである。野球が子供の遊びから競技スポーツに進展する過程で、投手は打者を幻惑しバットをかいくぐるために多種多様な変化球を生み出してきた。武器となる変化球を身につけることが、投手の生命線を握る。
 変化球を投げることの意味は、打者に的を絞らせないことである。ストレートと軌道が近いスライダーやフォーク、軌道が全く異なるカーブやパーム、ストレートと殆ど同じ軌道で小さく変化するカットボールやシュートで、打者の狙い球をかわしていく。更に大別すると3つの意味がある。1つ目は緩急をつけること。ストレートばかりを投げていては、いくら威力のある球でも捉えられる可能性が高い。そこで緩い変化球を織り交ぜれば、ストレートの速さを更に印象付けることができる。2つ目は安全にカウントを稼ぐこと。打者が基本的に打とうとするボールはストレートである。これはストレートが変化しないために打ちやすいイメージがあり、また打撃練習やバッティングマシンで最も打ち込む球種であるためである。また振り遅れて詰まることを嫌う打者も多い。そのため初球、もしくは1ストライク2ボールといった打者がストレートを高い可能性で待つバッティングカウントで、ストライクを取れる変化球は打者の打ち気をかわせる確率が高い。そして3つ目は決め球。小さく変化するスライダーやシュートで芯を外してゴロに打ち取ったり、大きく変化するスライダーやフォークや空振りを取る。
 プロのハイレベルな戦いでは、効果的な変化球の有無、制球は投手がプロで生き残れるかどうかを左右するほどの重要性を持つ。プロに入ってくるだけの投手は、殆どの場合十分な威力あるストレートを持っている。しかし配球のコンビネーションの対となる変化球、決め球になる変化球を身につけることができずにプロを去る投手も多い。ストレートだけで通用する投手は一握りも存在せず、また緩い変化球があるからこそ速いストレートが生きる、という見方もある。
 変化球の種類は大きく3つに分けられる。1つ目はストレート(ファストボール)系。カットボール、ツーシーム、シュートの類である。これらは球速があり変化が小さいため、バットの芯を外してファールでカウントを稼いだり、ゴロで打ち取るために用いられる。2つ目はカーブ系で、スライダーやカーブといった回転を加えて大きく変化する球種。これらは特に投手によって様々な変化をし、それらは変化の仕方や球速から縦スライダー、高速スライダー、スローカーブ、スラーブ、ドロップといった呼び方をされる。変化が大きいため、緩急をつけたり空振りを取るために用いる。3つ目は落ちる系で、フォークやチェンジアップなど。これらはストレートと軌道が近いことから、ストレートの球速を生かして決め球に用いやすいボールである。

【ストレート】
ストレート
 日本でストレートと呼ばれる球種は、メジャーリーグでは「フォーシーム(ファストボール)」と呼ばれる。これはボールが一回転するたびに縫い目(シーム)が4回現れるという意味。特に日本ではストレートは投球の最も基本となるボールとされ、投球どころかキャッチボールの時点から「ボールの握り方」としてストレートを教え込まれる場合もよくある。
 人差し指と中指でボールにバックスピンをかける。バックスピンによって縫い目が空気抵抗(揚力)を生み、重力によるボールの落下が小さくなる。地球上の物体は全て重力によって落ちていくわけだが、ストレートはボールが重力に抗って“浮く”「変化球」、と称することもできる。

【スライダー・カットボール】
スライダーカッター
 俗に「コンビニエンスボール」と呼ばれるほど多用され、殆どの投手が球種として持っている。変化を小さくすればカウント球に使われ、大きな変化のスライダーは空振りを奪える。まさに便利な球。反面スライダーに頼りすぎると肘が下がりがちになり、肘や肩に負担を強いることになる。
 スライダーは数種類のパターンがあるが、大きく横の変化と縦の変化に分けられる。横の変化は主にカウント球に用いられる。特に変化の小さく球速の速いスライダーは「カットボール」とも呼ばれる(ただしカットボールはカットファストボールとも呼ばれる通りスライダー系というよりはファストボール系のボールなのだが、日本人投手の場合カットボールの球速がそれほど速くないため、個人的にはスライダー系に大別してもよいかと思う)。縦の変化は空振りを奪うボールで、特に大塚晶則(テキサスレンジャーズ)の縦スライダーはかなり強力。カーブとスライダーの中間球「スラーブ」もこの部類。

【カーブ】
カーブ
 最も歴史の古く、投球の基本ともなるべきボールだが、近年はスライダーの隆盛に押されてカーブを使う投手は少ない。(ただ最近はまた見直されてきたようでもある)。
 スライダーとの違いはスライダーが球速があるのに対して、カーブは浮き上がりながらゆっくりと曲がり落ちる。投げ方の違いでは、スライダーは(右投手の場合)指をボールの右側に揃え、時計回りの回転をかける。カーブは指をボールの向こう側に引っ掛け、ボールを上方に弾くようにリリースする。
 カーブはストレートとの球速があるので、緩急をつけたりタイミングを外すために用いられる。ストレートとの球速差が特に大きいカーブは「スローカーブ」とも形容される。
 メジャーリーグでは、変化の大きく縦に鋭く曲がりおちるカーブを「パワーカーブ」と表現したりする。
 変化球全般に言えることだが、高めに浮くと打ちごろのボールになりやすいので、打者のベルトよりも低い位置に投げる意識が肝要。しかし一流のカーブ投手は、敢えて打者の頭ぐらいの高さからストライクゾーンの高目を強襲するカーブを投げて打者を幻惑したりする(これは意表を突くためのもので、多用は禁物)。

【フォーク・SFF】
フォークSFF
 スライダーと並び、特に(右投げの)オーバーハンドスローの投手の殆どが投げる球種である。ストレートと見分けが突き難いために空振りを奪いやすい。これは人間の眼球が横には大きく動きやすいが縦には大きく動きにくい、という点も加味される。しかしボールを指の間に挟むために強い握力が必要となり、またすっぽ抜けた場合は打者の打ち易い球となる。肘に負担が掛かりやすい球種で、過去村田兆治や佐々木主浩といったフォーク投手が肘にメスを入れている。そのためメジャーリーグでは指を大きく広げるフォークボールはあまり多用されず、指を狭めたSFFが主流である。
 人差し指と中指の間に挟み、指の間から抜くようにして投げる。基本的には縫い目に指をかけないが、人差し指を縫い目をかけたり中指を掛けたりして、スライダー回転やシュート回転をかけたりする投手もいる。主に空振りを取るために使われ、低めのストライクゾーンからボールゾーンに変化するコースが理想的。またフォークを多用する投手は、カウント球に用いる場合もある。

【シュート・ツーシーム】
シュート
 利き腕の方向に小さく変化する球種がシュートである。打者の内側に食い込ませて詰まらせ、ファールでカウントを稼いだり内野ゴロに打ち取る球種。シュートは腕を内側にひねり、腕に負担を強いるというイメージが強く、あまり多用されなくなった。しかし近年、メジャーリーグからツーシームという球種(概念?)が持ち込まれた。日本のシュートのイメージは「変化球(変化する球)」の一種だが、ツーシームは「ファストボール」の一種であり、ナチュラルに小さく変化するボールである。かつての「空振りも取れるボール」から、より「食い込ませて打ち取るためのボール」の意味合いが強い。

【シンカー・スクリュー】
シンカーシンカー2
 シュート回転しながら沈む変化球。メジャーリーグでは変化の大きなシュートもシンカーに含める。サイドスローの投手が投げやすい球種でもある。またスクリューは左投手のシンカーのことで、スクリュー(コルク抜き)と同じ時計回りにボールが回転するためにこう呼ばれる。
 主にシュート系の高速シンカーとチェンジアップ系の緩いシンカーに大別される。前者はシュートに近い。後者は中指と薬指の間から抜くボールで、一度浮き上がる軌道からゆっくり沈む。

【チェンジアップ】
チェンジアップサークルチェンジ
 メジャーリーグで日本のフォークの代わりに多用されるのがチェンジアップ。肩肘に負担が掛かりにくく、覚えやすい点が好まれる。
 主に人差し指・中指・薬指で鷲掴みにするボール(ストレートチェンジ)と、親指と人差し指で輪を作るOKボール(サークルチェンジ)となる。前者はボールにバックスピンをかけない分球速と浮き上がる力が小さくなり、ボールが打者の手元で沈む。ストレートと握りが近いので、腕を思い切り振ってもコントロールミスしにくく、また腕の振りから打者にストレートと錯覚を起こさせやすいボールであり、タイミングを外しやすい。後者は手の内側(親指側)に指の力が集中し、ボールがややシュートしながら沈むため、利き腕と逆側の打者(右投手なら左打者)により投げやすい。

【パームボール】
パームボール
 パーム(palm)とは掌の意である。ボールを親指と小指に挟み、掌で押し出しながら(或いは掌から指先に転がすように)リリースする。サークルチェンジのような握りで、スローカーブのように緩い軌道を描き、フォークボールのように低めに落ちてゆく。特殊な握りのために腕をしっかりと振ることが難しく、打者の意表を突きたいときに用いる。

【ナックルボール】
ナックルボール2ナックルボール
 最も特殊なボール。日本球界では真性のナックルを投げる投手は皆無といってもいい。真性のナックルとは殆ど無回転のボールで、ボールが回転しないために摩擦が大きくなって大きく減速し、縫い目の生み出す空気抵抗によってボールが不規則に沈む。  ボールの縫い目に人差し指と中指の爪を立てる。もしくはボールの腹に人差し指、中指(或いは薬指も)の第一関節を折り曲げて押し当てる。リリースは押し当てた指で弾くようにして投げる。
 ボールに対して指を立てたり折り曲げたりするので、指(と掌)が大きくないと投げづらい。また回転が多くなるとカーブに近い軌道を描く(この場合ナックルカーブと呼ばれる)。

【その他の特殊な変化球】
ナックルカーブ
 スパイクカーブはマイク・ムシーナ(ニューヨークヤンキース)やジェイソン・ベバリン(元横浜ベイスターズ)が投げる球種である。カーブの握りで人差し指を曲げて押し当て、人差し指で弾くようにリリースする。指でボールに回転を与えるために、鋭いカーブとなる。その握りからナックルカーブに含める場合が多い。
 シェイクは小宮山悟(現千葉ロッテマリーンズ)が開発した変化球で、フォークのように人差し指と中指で挟む。球速が90km/h以下と非常に遅いためにボールが不規則に揺れる。ただのスローボールとする説もある。


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初出:2006年7月29日、最終更新:2007年7月15日
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